前回でバッテリー+ソーラーの部材選定を終えました。発注前にもう一つ、確認しておきたいことがありました。屋外の設置予定地は、自宅の Wi-Fi が届きません。
これまでの記事はすべて Wi-Fi 前提で進めてきました。せっかく電源を独立させるなら、通信方式も見直すべきか。今回はその検討記録です。
目次
LoRaWAN は早々に除外した
低消費電力・長距離が売りの LoRaWAN から調べ始めました。自宅にゲートウェイを立てる案を試算したところ、SORACOM のゲートウェイサービスだけで登録料 ¥27,280 + 月額 ¥10,978 × 3ヶ月 = ¥60,214(最初の3ヶ月分だけでこの金額)でした。電源部材の総額(約¥7,080)を大きく超えます。
加えて、LoRaWAN のゲートウェイは「基地局クラス」の無線機として扱われ、総務省への無線局登録が必要という規制上のハードルもありました。近所に無料のコミュニティゲートウェイ(The Things Network)があれば話は別ですが、それは個別に確認するしかありません。この時点で見送りました。
Sigfox:エリアも電波も確認できたのに
次に調べたのは Sigfox です。1回あたり12バイト、1日140回までという制約がありますが、気圧・温度センサーのデータ量にはちょうど合います。 料金も SORACOM Air for Sigfox 経由で初年度¥3,960、2年目以降¥1,980/年と安く、有力候補でした。
KCCS のサービスエリアページで設置予定地を確認したところ、エリア内でした。念のため、その場所で実際にスマートフォンの電波が入ることも確認しました。ここまでは順調でした。
ところが、日本のホビー向けで定番だった「Sigfox Shield for Arduino」が、V1・V2S2 とも販売終了していました。代わりのモジュールも見つかりません。
さらに、Sigfox は独自プロトコルで TCP/IP を話しません。AWS に届けるには SORACOM Funnel という中継サービスを挟み、AWS 側で IAM ポリシー・ロールの設定も必要になります。前回確認した MQTT/TLS の知識がそのまま使えないわけです。
「エリアも電波も確認できたのに、肝心のモジュールが手に入らない」という、少し拍子抜けする結末でした。
セルラー:通信費は安いのに、繋ぐモジュールが無い
気を取り直してセルラー(LTE-M/NB-IoT)を調べました。ESP32 は1時間に1回、ディープスリープから起きて送信する想定なので、実際の通信量を試算してみます。
24回/日 × 30日 = 720回/月
1回あたりの通信量は、送るデータ本体よりも接続・TLSハンドシェイクのオーバーヘッドの方が支配的です。目安として1回5〜10KBとすると、月あたり約5MB程度になります。
SORACOM の確認できた料金体系(plan-D、バンドルなし)はこうでした。
基本料: ¥10/日 × 365日 = ¥3,650/年
データ料: 約63MB/年 × ¥0.2/MB = 約¥13/年
合計: 約¥3,700/年(月あたり約¥305)
基本料がほぼ全てで、データ量による差はごくわずかです。ここまでは想定どおりでした。
問題はハードウェア側でした。ESP32 に外付けできる単体のセルラーモジュールを探したところ、こちらも Sigfox と同じ壁にぶつかりました。
| 候補 | 状況 |
|---|---|
| SORACOM「LTE-M Shield for Arduino」(Quectel BG96搭載) | 販売終了 |
| SORACOM Onyx(LTE USBドングル) | ¥13,750。ただし LTE Cat.4(低消費電力の LTE-M ではない)で、USB ドングルなので ESP32 側に USB ホスト機能が必要 |
| Quectel BG95 等の裸のモジュール | 表面実装部品で、アンテナ整合を含む基板設計が必要。はんだ付け初心者には扱えない |
| Wio BG770A v1.0(Seeed製) | 現実的な唯一の選択肢。¥14,850 |
Wio BG770A は独自マイコンを搭載した開発ボードで、ESP32 そのものを置き換えることになります。BMP180 は I2C なのでコードの移植自体は難しくないはずですが、これまでの ESP32・PlatformIO という前提が崩れます。
通信費(年約¥3,700)自体は妥当でしたが、電源部材の総額(約¥7,080)にほぼ匹敵する初期投資が発生します。ここが最終的な見送りの決め手になりました。
結局、Wi-Fi のまま進めることにした
3つとも見送った結果、方針を変えました。通信方式ではなく、Wi-Fi の電波が届く環境を作る方向です。
Wi-Fi 中継機を自宅と設置場所の間に置く、というだけの話ですが、これならこれまで積み上げてきた ESP32・センサー・電源回路の設計を一切変更せずに済みます。 通信方式を変えることの本当のコストは、通信費そのものよりも「これまでの検証がどれだけ再利用できるか」にある、というのが今回の実感でした。
まとめ
| 方式 | 判定 | 主な理由 |
|---|---|---|
| LoRaWAN(自前ゲートウェイ) | 早期に除外 | 無線局登録が必要。ゲートウェイ自体も高額 |
| Sigfox | 検討したが見送り | エリア・電波は確認できたが、モジュールが販売終了 |
| セルラー(LTE-M/NB-IoT) | 検討したが見送り | 通信費は妥当だが、代替ハードウェアが高額 |
| Wi-Fi + 中継機 | 採用 | 既存の設計を変更せずに済む |
追記: AWS連携を終えてから、もう一段調べ直した
AWS 側(API Gateway + Lambda + DynamoDB + CloudWatch ダッシュボード)まで作り終えたあと、「代替ハードウェアが高額」という理由で見送ったセルラーの状況が変わっていないか、もう一度調べ直しました。
結果、当時は見つけられなかった、ESP32 を置き換えずに追加できるセルラーモジュールが2つ見つかりました。
- 秋月電子「BG96 LTE ブレークアウトモジュールキット」(¥9,800、Quectel BG96、UART接続)
- Switch Science「SIM7080G CAT-M/NB-IoT+GNSSユニット」(¥9,317、UART接続)
どちらもレベル変換済みの UART なので ESP32 に直結でき、TinyGSM ライブラリ経由で HTTPS/TLS 通信にも対応していることを公式ドキュメントで確認しました。技適についても、秋月の BG96 キットは FAQ ページでアンテナ型番(antenova Lucida SR4L002)まで明記されており、確実性が高いです。
当時唯一の候補だった Wio BG770A v1.0 も価格が¥14,850→¥13,200に下がっていましたが、独自マイコン(nRF52840)搭載のため依然として ESP32 の置き換えが必要です。公式のセルラーライブラリ(WioCellular)を確認したところ、平文 HTTP・MQTT の例しかなく HTTPS/TLS 対応が確認できなかった点も、上記2つの UART モジュールに分があります。
参考までに、Lilygo T-SIM7080G-S3(ESP32-S3系)、Leafony、STM32、Qualcomm Dragonwing 搭載の Arduino UNO Q、Wi-Fi⇔LTE の自作ゲートウェイ案なども検討しましたが、いずれも「ESP32 を置き換えずに追加する」上記2択より実装リスクやコストが高く、見送りました。
結論(Wi-Fi 継続)は変わりませんが、次にセルラー化を試すなら候補はこの2つに絞れた、というのが今回の収穫です。
次回
Wi-Fi 中継機の設置は、電子工作というより家庭内ネットワークの話なので、部材が届いてからの実地調整で対応する予定です。AWS 側のアーキテクチャは別記事で扱う予定です。次はセンサー側の検証を終えたうえで、上記のセルラーモジュール候補を実機で検証する予定です。